Just Hanging (no.11 of 16, from the series, Do Not Abandon Me)
Year: 2009-2010
Medium: pigment dyes print on fabric
Dimensions: 74 x 60.5 cm (29 1/8 x 23 13/16 in.)
Edition: #4 of 18 + 6 A.P. + 1 H.C.
Acquired from Sotheby’s, 2022
「Do Not Abandon Me」はルイーズ・ブルジョワとトレーシー・エミンによる合作であり、ブルジョワが2010年に没する直前に完遂された、彼女にとっての最後のプロジェクトでもある。本来は16枚の連作として発表されており、本作「Just Hanging」はシリーズ内の11番目の作品となる。エミンはブルジョワに深い影響を受けていることを明かしているが、その両者に通奏する身体性への関心が一連のドローイング制作における協業を通して豊かに共鳴している。独立したアーティスト同士のコラボレーションは度々行われるが、ここまで本質的な親和性を示す合作は珍しいだろう。制作にあたっては、まずブルジョワがルーズな絵具の広がりを使って横を向いた人物のボディを描いた。ブルジョワによる描画部分は、妊娠した女性の腹部と勃起した男性器を描いたものとが半数づつあり、それらに対してエミンが後から線描を加筆している。ブルジョワの描写は男性と女性の身体と生殖的役割についてシンプルで定型的な記号化がなされている。その記号的かつ象徴的な描写にエミンが具体的なストーリー性を持ち込み、それぞれの作品個別の性格を付与している。生殖本能に根ざした身体的性差を極めて端的に示したブルジョワに対して、性愛や感情のヴァリエーションを生々しくも細やかに描き分けたエミン、という両者の身体および人間観の差異がこのコラボレーションをより興味深いものとしている。本作においては、いかにも雄々しい男性器にかけられた縄状のものによって力なく吊るされた女性像が描かれている。本作の個別タイトルが「Just Hanging」とあるようにただぶら下がっているだけ、と素直に受け止めるにはあまりに衝撃的な光景であることは否めない。「Do Not Abandon Me」というシリーズタイトルに預けられた共依存性が暗に示すものは、広義には離れ難いほどの性愛を、狭義においてはブルジョワとエミン両者のアーティストとしての世代を超えた精神的咬合であるだろう。
本シリーズには各18部のエディションと6部のアーティスト・プルーフが存在するが、唯一のH.C(非売エディション)は全てMoMA(NY)に収蔵されている。