-
untitled
-
Year: 2022-2023
Medium: oil on canvas
Dimensions: 100 x 80.3 cm (39 3/8 x 31 5/8 in.)
Acquired from Biscuit Gallery, 2023
山田は制作の始まりにオイルをキャンバスに染み込ませる。十分な油分を含んだ画布は絵具を滑らかに吸い込み、滲みや垂れるような偶発性を呼び込む。それを受けて山田の筆は更に進んでいく。山田の絵画は特定のモチーフを取ることはなく、色彩と線描と色面、それら基本的な絵画の構成要素を研ぎ澄ませていくのみで作られている。本作においても黒の太くまっすぐな線描がダイナミックに画面を走り、それが赤と青という対比的な色彩を大きく二分している、というのが初見の一印象だろう。その通り、単純で基本的な技術のみによって表すことで、却って山田の力量と表現力が堂々と示される、本作はそういう作品になっている。人の目は容易に騙されるものだが本作をじっくりと眺めていくうちに、赤、青と極めて端的に示されているだけのように見えた色彩は、実際には色相、明度、彩度の細かい部分での高度な調整がなされていることに徐々に気付かされることだろう。明暗の滑らかなグラデーション、赤と青を繋ぐ紫、それらが最小限且つ最大効率的に用いられることで画面に捩れるような空間性を生み出している。また、気まぐれな差し色のように見える黄色や緑色は断片的ながらも作品の性格を決定付けるほどの強さを放っている。特にこの小さくとも鮮烈な黄色が後から「加えられた」ものではなく、意図的に「残された」ものであるという点に気付くと本作の見え方が大きく変わってくるだろう。山田の作品は、絵具によるレイヤーを多重に重ねているが本質的には加法的な構成を目論んだ絵画にはなっておらず、むしろ、既にそこにある色と形象を塗り潰し、もしくは塗り残すという減法的な思考によって作られていることを認識することは重要である。山田は、何を加えることによって何を消し何を得ようとしたのか、その過程と結果を目で追って欲しい。