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Woman
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Year: 2022
Medium: oil on canvas
Dimensions: 181.8 x 227.3 cm (71 1/2 x 89 1/2 in.)
Acquired from Ginza Tsutaya Books, 2022
川内のペインティングは肉厚の油彩と、それを引っ掻いて描く線とで構成される。本作では心臓、獣、人物の頭部や文字などが深く刻み込むような筆致で描かれている。タイトルと画面の赤は鑑賞者に身体性(血や肉)を強く意識させる。本作では特に内臓器官や人物の表情に若干の露骨さを覚える程度には具体的な造形の捉え方がなされているものの、それぞれのモチーフは象徴的で記号的な役割が与えられているように見受けられる。例えば、獣は心臓や「Moon」の表記からジャガーだろうと連想されるが、それは象徴的なものとして描かれているはずである。アステカやマヤの神話においてジャガーは夜と月の神の一柱であり、正に心臓を意味する名を冠する。また、絵画全体が一つの身体の暗喩となっているのだろう、よく見れば肺、気管、心臓、腸などの器官が、獣や人物たちを内包しながらもおおよそ人体的な位置に配されている様子が見て取れる。食べ物を摂り込むことで生命が維持される。幼少からその摂理に疑念を抱いていた川内にとって、それを主題とし続けることは身の内に眠る獣性と向き合うことに他ならないだろう。線描を支えている分厚く力強い絵具の層は、こちら側へ迫るような物性を伴っている。その点においては、『画面の抵抗』と川内が呼ぶ現象を無視してはならない。これは絵具の圧倒的質量が塊としてそこに存在するという物理的な事実のことではなく、絵画に内包された川内の思念が画面という皮膜の内側から逆に川内の干渉を拒んでくる、つまり絵画としての完成を作品の方から告げてくるような観念的な現象を「抵抗」と呼んでいるのである。川内の絵画が表層を抉るように描かれている理由がそこにあるだろう。線は『画面の抵抗』に対する画家自身の抵抗の痕跡である。絵画としては具象性を強く帯びながらも、本質的には川内の内面における抽象概念の発露という観念的絵画でもあるのだと考えられるのではないか。