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Payback is a motherfucker. The final death of Harlem Carl. Or, in another time, he would have outlived us all.
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Year: 2022
Medium: acrylic, ink, and spray paint on canvas
Dimensions: 213.4 x 182.9 cm (84 x 72 in.)
Acquired from Blum, 2022
ラシッドは一貫してフレングリッシュ帝国(Frenglish Empire)という近代のフランスとイギリスを掛け合わせたような架空の国家を題材として、歴史に対する綿密なリサーチを通して、史実にこの架空の帝国を紛れ込ませるような物語を紡ぎ上げてきた。本作はその代表的な絵画シリーズの「Ancien Regime Change」からの一点となる。Harlem Carlと名付けられたラシッド自身をモデルにしたフレングリッシュの王が、猛る馬に跨ってファルシオンか鉈のような幅広い湾刀を大きく振り翳している騎兵に今にも討ち取られようとしている。騎兵の足元で王を足蹴にしている兵士は革命戦争時のフランス軍将校のような軍服を纏っている。Harlem CarlはCharlemane(カール大帝)の名の一部から着想されている。ヨーロッパの父とまで呼ばれるこの偉大な帝王に準えることは、すなわち中世以降のキリスト教ヨーロッパの発展の歴史に対する言及を意味する。一方で「Ancien Regime」とはフランス市民革命以前の王政時代を指す言葉だ。ラシッドは、このヨーロッパの帝国主義的あるいは植民地主義的な思想と歴史の果てに発展を成し遂げてきた西欧の歴史観に対して、ユーモアと批判性を加味した荒唐無稽にすら思える新たな物語を投げかけ、それによって史実の裏側に無数にあったであろう別視点の歴史観を私たちに拓くのである。逆向きにスプレーペイントされた「Alive.」の文字、長いタイトルに何を読み取るか。本作はニューヨークのMoMA P.S.1での個展「Ancien Regime Change 4, 5, and 6」(2022年)において出品された。