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Mermaid of Banda Sea
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Year: 2024
Medium: oil on canvas
Dimensions: 200 x 300 cm (78 3/4 x 118 1/8 in.)
Acquired from ROH Projects, 2024
何千もの島嶼からなるインドネシアでは、囲まれるというよりは海によって断片的な国土が緩やかに繋がっている。交通網でもある海はそこを通ろうとする人間にとっては未だ危険な障害であり未知の領域でもある。古来洋の東西を問わず海はそれに関わる人々の空想を掻き立て、神話や伝承となって今に残されている。本作はオランダ東インド会社統治時代のインドネシアにおいて捕獲されたとの逸話が残されている人魚を題材としている。アンボイナの人魚として文献にも記述されているそれは真偽の程は定かではないものの、インドネシアを活動拠点とする今津には大きなインスピレーションを与えたようだ。今津はさまざまな図像を絵画上でコラージュするような制作で知られるが、図像に付随する意味や思想も少なからず絵画に入り込んでくる。本作では古地図のような描画をベースに、青い海のモチーフがさまざまに展開されている。「BANDA」と地名が見える地図のイメージはインドネシアの凄惨な歴史を想像させる。そこに伸びる死神のような指の骨は動物の頭骨に触れようとしているが、これは恐怖をその地にもたらす支配者の手だろうか。画面中央の青緑の中に浮かぶ白いシルエットは長い尾鰭をゆらめかせる人魚の姿だ。過去の歴史と伝説とが複雑に重なりあって成り立つ現代社会の縮図として描かれている。当コレクション所蔵の作品「Drowsiness」(2022年)も同じ人魚伝説を題材としており、あわせて鑑賞されたい。