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untitled
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Year: 2023
Medium: oil on canvas
Dimensions: 227.3 x 181.8 cm (89 1/2 x 71 1/2 in.)
Acquired from Taka Ishii Gallery, 2023
画面の大半が形容し難い深みのある赤を基調としている。視線が終着地を見失い、広い画面がより広く見える。中腹には水平に切り裂いたような描写があり、自ずとそこに視線が誘導される。山田は多くの場合において最初に明るい黄色を配置するという。本作においても、画中で最も明るい色はこの裂け目にある黄色だ。この裂け目にある黒い線と色彩によって望洋とした中に突如として空間が現れる。かつて抽象表現主義における象徴的作家とまで称されたデ・クーニングは具象性を終生手放さなかった。山田作品の黒い線を見る時デ・クーニングの線を思い出す。彼らの線描は図と地を分つのではなく線と面が拮抗している点で似通っている。「ホームレス・リプレゼンテーション」と揶揄されもしたがデ・クーニングにおいては線と面の階層が同一平面内に埋没してイリュージョンから解放された具象性と抽象的な感性が併存したのだとして、山田の作品ではその両者の拮抗によって生まれる絵画が同一平面上に多重の層を形成しているという点に大きな構造的差異がある。CGで複数レイヤーを統合した結果として最前面に示された図像を目にするのと同じく、山田の絵画には隠されたものが表層の背に幾重にも存在するという前提があり、鑑賞者は絵画の裂け目を通してそれを予感するのである。そこに絵画としての空間の余地(ネガティブ・スペース)が存在する。いつまでも消すことのできないこの多重性は、消去と重ね書きの痕跡=パランプセスト的な重層性とも異なる。描き重ねが消去と同義でなくなった現代において多重性が新たなイリュージョンとして自明のものとなりつつあることは、この新しい抽象絵画の空間性を説明するだろう。