Bay of Sagami, Atami
Year: 1998
Medium: gelatin silver print
Dimensions: image size : 42.3 x 54.2 cm (16 5/8 x 21 3/8 in.) sheet size : 47.8 x 57.9 cm (18 3/4 x 22 3/4 in.)
Edition: No. 12 of 25
Acquired from SBI Art Auction, 2023
杉本の代表的作品シリーズである「海景」のうち、相模湾の水平線を熱海市から望んだ作品の一枚。自身の総合的な美意識の集大成としての複合施設・江之浦測候所の開設にあたって杉本が回顧しているように、小田原から熱海にかけての相模湾の海景は杉本にとっての原体験に近いものだという。世界中で撮られた「海景」のシリーズの中でも杉本の個人に紐づく要素が特に強い熱海の連作は、写真でありながらも抽象的な画面の中に杉本博司という人間の精神がより色濃く表れてくるように思われる。特に本作は、その他の「海景」では空と海とを完全に等しく二分する水平線が霞の奥にかき消えたようにその境界を曖昧にしている。近隣の陸地という場所性を除けば地球上をひとつなぎにする海に明瞭な区分はなく、空もそれは同様である。杉本は「海景」において、圧倒的な二つの領域が天地開闢以後今に至るまで在るという厳然たる事実と、その茫漠な時間をただ静かに繰り返し写し出そうとしている。人間といういかにも矮小な存在と時間が水平線によって相対化させられる。本作の曖昧な水平線の前に立つと、水平線が写真として写る写らないは最早問題ではなく、その不変の事象と対峙する自らを顧みることこそが、この「海景」に通底する杉本の精神なのだろうということに思い至る。
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