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untitled (Speaks)
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Year: 2023
Medium: acrylic, pencil, grease pencil on paper
Dimensions: 106.7 x 81.3 cm (42 x 32 in.)
Acquired from Misako & Rosen, 2023
廣の作品は自身の身体を起点としている。自らの体は紛れもなく自分自身という存在を同定する。しかしながら、自身の背中を直接自分の目で見ることはできないのである。廣の作品では、そうした実体がそこに明確にあるはずにもかかわらず認識できない身体を表現している。本作のようなドローイング作品では、紙に自らの体を直接横たえたりしながら制作される。類似の作品では、自らの人体の部位(乳首や性器など)と描画上の起点が対応しているものもある。自身の作品を起点とする、という意味はまさに作品と廣の身体が直接的な相関関係にあるということである。本作もそうだが、画面は緩やかに左右線対象の造形を成す。人間の肉体も差異はあるにしてもまたおおよそ線対象にできている。一見抽象的に見える本作だが、これは廣直高という人物の極めて具象的な身体イメージそのものである。自分の目で見えない部位を空想し、目で見える部位ですらもその視覚を信頼せず、感性によって造形していく。人の発達過程では幼少期から徐々に身体イメージを獲得して自らの身体についておおよその構造を目で見ずとも把握している。それはつまり、他者の身体には常に強い関心を向ける私たちであるが、最も身近な自分自身の身体については日常を生きる上では忘却状態にある。最も確実な実存である自らの身体について忘却しているという事実、あるいは未知の領域が身の内に存在するという事実に対する恐怖にも似た強い関心がそこに示されている。