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Hammerhead
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Year: 2023
Medium: oil on canvas
Dimensions: 208.3 x 173.4 cm (82 x 63 1/4 in.)
Acquired from Blum and Poe, 2023
クインの作品には先行する美術史からの応用がある。それはイメージ、技法、コンセプト、さまざまなレベルで行われ、画面上で重ねられることで「視覚的耽溺のモデル」と自ら表現する画面を作り出している。本作は、スペインバロック期の画家ホセ・デ・リベーラの作「ティテュオス」(1632年)にインスピレーションを得て制作された作品の一点である。ティテュオスはギリシア神話の巨人で、ある咎により二羽のハゲタカに肝臓を食べ続けられるという刑罰を受けている場面を描いたものだ。タカが獰猛に人を啄む姿は世にも恐ろしいが、クインの作品中に具体的にそれを明示する図像は表れてはいない。ここでタカはクインの中で象徴的な意味へと昇華され、連鎖的なイメージの起点となっている。タカなどの猛禽類は上昇気流に乗って集団で旋回することがあり、上空に向けて沸き上がるようなこの飛翔行動を「Kettle」と英語では表現する。クインの特徴である「チューブ」が渦巻くような描写はここでは「Kettle」と結び付けられる。「Hammerhead」は槌の頭を意味するがその形態からシュモクザメの英語名にもなっている。シュモクザメはサメの仲間としては珍しく大規模な群泳をすることで知られており、クインの中でタカの「Kettle」とヴィジョンが重なったのかもしれない。また、本作の炎のように強い赤や金属質のスペクトルによって輝くような画面上の色彩は、プロメテウスが人間のために盗み出した天界の火を連想させる。その罪によってプロメテウスもまたティテュオスと同様の刑罰を受けているからだ。クインの作品の豊穣さとは、この溢れかえるようなイメージの連鎖にあるだろう。