-
North Pacific Ocean, Ohkurosaki
-
Year: 2013
Medium: gelatin silver print
Dimensions: image size : 42.5 x 54.2 cm (16 3/4 x 21 3/8 in.) sheet size : 47.9 x 57.8 cm (18 7/8 x 22 3/4 in.)
Edition: No. 18 of 25
Acquired from Phillips, 2023
日本近海の呼称ではなく、北太平洋と題することで目の前に広がる海に向けた杉本の目が遠くへ向けられているのがわかる。やや長めに取られた露光時間を示すように、波の軌跡がストライプ状に写る。空が深い黒になっていることから、日の光は水平線の下にあり、白い波は星や月の光を受けているのだろう。空と海とをまっすぐに切り裂いたような水平線が、凛とした海の空気を伝えてくる。写真の左右は次第に闇が深くなり、水平線もその両端は薄れていくように見える。杉本の目は海を眼差していながら、その心は宇宙を夢想している。「この大地が水球であることを私は実感した」と杉本が述べているように、水平線とは即ち「水球の淵」なのである。あまりに人のスケールを凌駕してそれは直線を成しているように見えるものの、それは厳密には極めてゆるやかな弧を描いているはずだ。遥か上空から望めば海と空の境界は次第にこの星の輪郭へと置き換わっていくように、空と海の境界に現れる水平線とは相対的なものだ。視点と尺度を変えればそれは異なって見え、しかしやはりそれは同一のものでもある。本作に見る黒い空と接する明るい水面を前にすると、その先にある遥か時空の彼方にまで遊離していく杉本の心も然りと思われる。