Year: 2022
Medium: graphite on paper
Dimensions: work size: 114.3 x 121.9 cm (45 x 48 in.) frame size: 118.1 x 126.5 cm (46 1/2 x 49 3/4 in.)
Acquired from Pace Gallery, 2023
ダイソンは黒人の身体性から空間を構成的に捉え直すことを「Black Compositional Thought」と称して、作品制作の理論的ベースに置いている。歴史上、建築や都市が作られていく過程で黒人と白人の社会的な断絶を目的とした空間が形成されて現代の社会が構築されていることを指摘するものだ。本作が連なる「Liquid a Place」は、ダイソンが近年取り組んでいるシリーズであり、人間の身体とは空間の中の水であるとする命題に従って制作されている。地球は70%、人間は60%という組成の大半が水である。身体を水であるとしたとき、その存在を空間の中でいかに同定すべきかを問うている。水は器の形に沿って自在に変形し、温度によって気体、液体、固体へと形態を変える。一見自由な変性は逆から見れば摂理や規定の外には逃れられないのだとも言えるだろう。黒人の歴史が抑圧のもとに生きざるを得なかったことに対する抵抗の歴史であるならば、本作でダイソンが人種にとらわれぬ人間を水と置き換えることで示すのは、その抗議の源泉たる人権もまた人種にとらわれぬという事実であるだろう。本作は「Edge, Encounter」と題されている。領域を幾何学的に規定する白線と歪な空間的展開を見せる黒鉛の面、その両者が遭遇する緊迫した境界領域において「Black Compositional Thought」が幾何学的抽象(composition)の話法に従って示されている。