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Dionysus
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Year: 2019
Medium: acrylic on canvas
Dimensions: 55 x 45 cm (21 5/8 x 17 3/4 in.)
Acquired from Sotheby’s, 2023
ディオニュソスとはギリシア神話における豊穣と酒の神である。ローマ神話ではバッカスがこれにあたる。古代の神話はコヴァジークにとって絵画の主な題材となってきた。そして、神話を扱う物語画は17-18世紀のアカデミズムにおいて絵画の頂点とされてきた歴史がある故に、この作家はそうした古典絵画の話法において自らの作品を試みていることが容易に予見される。本作では、決して大きくはないキャンバスの中に堂々たる体躯をあらわにしたディオニュソスが描かれている。酩酊の神らしく赤く血走った目を遠くに向けながら静かに盃を傾けている。細やかな陰影を描き入れてはいるものの写実性を目指してはおらず、その大胆な人物の描写は誇張と図式化による構図の充実を優先していると言える。ディオニュソスの冷ややかな横顔や胸を開き半ば横わるポーズはアンリ・ルソーの「夢」(MoMA, NY所蔵)に描かれた女性像のそれを彷彿とさせる。ルソーと同時代のキュビスムやフォーヴの作家に対する深い理解も感じさせる。画面を覆い尽くすように描かれたディオニュソスの後背には明るい満月が浮かぶ灰色の山脈が見える。オリュンポス山だろうか。極めて近距離のデュオニュソスと遥か遠くの山並みしか存在しないようなこの極端な遠近感によって、狂乱の逸話も多い神であるディオニュソスの超常性がより強調されて見えてくる。ニーチェは『悲劇の誕生』において対照的な二柱の神の名を借りて、芸術はディオニュソス的な情動の発露とアポロ的な秩序と理性の二重性によって発展してきたのだと論じた。コヴァジークの描くディオニュソスは、内に秘めた激しい情動の炎をその目に灯している。