Year: 2015
Medium: acrylic on canvas, silk screen, airbrush, colored pencil, chalk, oil pastel on paper
Dimensions: 76.3 x 57.5 cm (30 x 22 5/8 in.)
Acquired from SBI Art Auction, 2023
本作は、”Private Bouquet (Suite of 8)” と題して8枚の連作として発表されたものの一枚である。人物をモチーフに描くことの多いバスの作品の中では比較的珍しく、花の静物画というスタイルの作品となっている。作品の主たるモチーフであるべきブーケはブラインド・カーテンで半ば隠された状態で描画されている。青いブラインドは着彩した紙のコラージュになっており、より物質的に花を覆い隠そうとするバスの意思を強く感じさせる。しかし、このブラインドによって隠すという表現には、対象を人目に触れさせぬように守りつつも、そのスリットから外部の窃視的視線を受け入れもするという二面性を孕んでいる。バスは決して露骨に走ることなく寓意性の高い表現によって人物像を捉えて退廃的な官能性を描き出してきた。鑑賞者はその甘い抒情性に酔わされるのだ。本作において、バスは静物画のスタイルを踏襲しながらも、やはりそこに秘めたる官能性を描いているように見える。描く対象が人物であれば表情やジェスチャーによってそうした特徴を示唆してきたバスであれば、花は表情を持たない代わりに画題としては愛や身体や死生にまつわるさまざまな象徴・意味を内包していることを踏まえた上で静物画というジャンルをあえて選択していると見るのが妥当だろう。人間性が仮託されたブーケを半ば隠す、という表現がここではより強い隠喩として機能しているであろうことが推察される。タイトルにある「Private」という言葉はさらにその向きを強調する。語感から察するに極めて私的な場における、おそらくは特定の誰かへの親愛感情の表れであるはずのブーケを部外者である我々は卑しくもそれを窃視する立場に置かれるのだから、このブラインド・カーテンはその視線の関係性を鑑賞者に自覚させるためにあると捉えるべきだろう。この全貌を露わにすることのないブーケは、翻って、バスならではの抑制された官能の現れでもある。