-
Cell
-
Year: 2018
Medium: watercolor, oil pastel, thread on paper
Dimensions: 56 x 42 cm (22 x 16 1/2 in.)
Acquired from Kenji Taki Gallery, 2022
2017年、塩田は2度目の卵巣がん発病によって死と向き合った。6時間にも及ぶ手術を経て卵巣を摘出し、5ヶ月にわたって抗がん剤治療を続け、そして病魔を退けた。今日の塩田の国際的な評価の端緒となった2019年の個展「魂がふるえる」(森美術館, 東京)は、病に打ち勝った作家の、まさしく全霊をもって開催されたのである。本作を含む「Cell」シリーズは、その名の通り細胞を題材とした作品群である。癌とは、アポトーシス(細胞死)が機能しないことによって異常に増殖してしまった細胞組織のことだ。人の体は細胞によって組織されているので、一度その正常性を失えば即ち死に直結する。塩田は生と死を自らの作品命題に据えているが、闘病によって奇しくもその両者を司るものの恐るべき病理に触れたのである。本作では風船のように膨らんだ赤い細胞組織をかろうじて安定させようと一筋の糸が繋ぎ止めているように見える。細胞は自らの意志によっては支配できず、まして病巣と化した細胞に対しては医療という外側からの干渉を受けてようやく戦うことができる。身体を救うべく心はひたすら苦しみに耐え抜く。心と体を引き離されるほどの苦しみを体験した塩田が、人間としての尊厳を、自我を、自らの身体へと再び取り戻すために作られたのが「Cell」である。