Year: 2022
Medium: NFT(Non-Fungible Token), digital work, endless
Dimensions: dimensions variable
Acquired from Pace Gallery, 2022
チームラボによる初のNFT作品。「Black in White」「Black in Black」「White in White」「Gold Light」「Fire」「Water」「Fog」の7つのヴァリエーションが存在する。本作品「Fire」は火文字のようなテキストが表示される。チームラボによれば自転と公転と説明されているが、テキストは仮想空間内で立体的な回転挙動を見せる。文字は平面上でこそ認識されるが、本作品における文字は三次元的な造形を有しており、それが複雑に回転することで正しく読まれることを拒んでいるようですらある。この作品の購入者は作品の真正性をNFTによって担保されるがそれは作品の唯一性を保証はしない。作品は常にウェブ上で公開され誰でもダウンロードすることができる。しかし、購入者に限って初期設定されている「Matter is Void(物質は空虚)」の文言を自由に変更する権利が与えられている。この変更は鑑賞目的で作品をダウンロードした人にも即時共有される。2022年10月の本作品発表時、ミュージシャン・クリエイターであるGrimes(グライムス)によって「Paper Burns As I Write(私が書くにつれ紙は燃える)」と書き換えられた状態でニューヨーク市タイムズ・スクエアのビルボードおよび、アートフェア「Paris+ Par Art Basel」で公開された。
作品の唯一性あるいは希少性という旧来の美術品の価値基準に照らすならば、本作ではデジタル・アートが持つ複製可能性とNFTが指向する代替不可能性とを共存させることを、その唯一性を最も必要とする所有者に特定的な権限を付与することによって巧妙に実現していると言える。あまねく共有される作品でありながら、所有に紐づけられる価値の源泉は唯一無二なのである。般若心経における「色即是空」に相当する「Matter is Void」という言葉は、それが何に向けて発せられているのかを私たちに問う。物質として所有することができない、つまり価値は物質に置かれていない。であれば、その価値は信用において形成されるべきであるが、果たしてその信用を担保するものとは何か。それこそ複製技術が放逐したとされてきた「アウラ」と呼ばれるものだ。Grimesは「the impermanence of things and let go of things」と解釈したが、とりとめもない空虚へと滑っていく価値について、空転する文字を眺めながら考えさせられる。