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水を蹴る(おのずと) / Kicking the Water (as a matter of course)
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Year: 2022
Medium: acrylic on cotton
Dimensions: 112 x 146 cm (44 x 57 1/2 in.)
Acquired from ShugoArts, 2022
穏やかに凪いだ湖面を、わずかに尾を引きながら一艘のボートが滑っていく。鬱蒼と迫り出した木々の緑を映した鏡のような水面に二人の人物とその影が揺蕩っている。本作を含む個展に際して丸山自身が寄せた文章には、水たまりに映る景色を眺めて絵画を思う丸山の心情が綴られている。「水を蹴る」とはその文章中に出てきた、水面の世界と現実の世界の境界を揺るがす行為の比喩として書かれている。丸山は、絵画を描く際にキャンバスに水を含ませ、絵具を染み渡らせるようにして描く。丸山が目にした水たまりの水面は、いかにもはっきりとした世界の鏡像を結んでいたことだろう。それを丸山は「おのずと」「蹴る」という行為に出ざるを得なかったのである。なぜなら、丸山にとっての絵画とは、何かをただ写し取るだけではないからである。水は鏡であると同時に不確かなものの比喩としても読める。揺らぎの中にぼんやりと、しかし、その不確かさによってかえって存在を認められるようなもの、丸山はそれを「絵画が生まれる」ことだとした。愛しい人の影をなぞること、あるいは水面に映る姿を絵画のはじまりと説く逸話は多い。触れようとも適わないものの、せめてその似姿を残そうとする意思が絵画を生むのだとすれば、丸山が望むものは、作家自身にも捉ようのない不確かなものなのかもしれない。