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Work
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Year: 1993
Medium: charcoal on paper
Dimensions: 31.4 x 24 cm (12 3/8 x 9 1/2 in.)
Acquired from SBI Art Auction, 2022
イケムラのキャリアのなかでは比較的初期にあたる1993年制作のドローイング作品となる。90年代初期は、以後しばらくの間イケムラにとって主要なモチーフとなる少女のイメージが描かれ始めた時期に重なる。少女は儚げながらも、生や性を身のうちに力強く秘めるものの象徴として描かれていた。「少女」シリーズの多くは、暗い背景に水平線を思わせる描写がわずかに取り入れられている。むしろ絵画の中の空間性としてはその水平線らしき描写をわずかばかりの手がかりとする漠然としたものだ。その世界の果てのような空間においてほぼ唯一の具体性を帯びて存在するもの、凛として佇む(横たわったり眠っていたりもする)少女の表現は気高い精神性を湛えている。イケムラ作品の中でも特に評価が高いといえるだろう。一方で本作のような90年代のドローイング作品においては、寂寥とした油彩での表現とはやや趣が異なり、より強い線描によって動物や人物の内面を暴くような描写が多く見られる。身体が異様に誇張されたり、犬やウサギのようなものと人間のハイブリッドのような幻想性は最初期の80年代から引き続いてイケムラの世界観に通底している。本作においても、縦方向に長く引き伸ばされた身体や、象徴的に入れられた朱色の描写は、どこか不安や怒りを感じさせる。逆立つ頭髪の表現がよりそれを強調しているだろう。イケムラは長らく拠点とする欧州において、異邦人女性という決して楽ではない立場からアーティストとしての自立と評価を自らの手によって勝ち取ってきた。その弛まぬ意志の力は、つま先で大地を掴んで離さないこのドローイングの女性像さながらであろう。