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The Moon of Jupiter
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Year: 2010
Medium: oil on canvas
Dimensions: 170 x 270 cm (66 7/8 x 106 1/4 in.)
Acquired from Sotheby's, 2022
クインは多数の作品シリーズがあるが、最も有名なものの一つに「Garden」(2000年)がある。これは冷凍システムを完備した巨大なショーケースに季節も地域もさまざまな鑑賞用花卉を用いてさながら楽園の花園のようなインスタレーションを展示したもので、ファウンデーション・プラダのために制作された。以降、人間の愉悦のために最適化された園芸品種の花々が讃える人工的な美しさを題材とした作品展開が始まっている。古来より花は生の喜びを祝い、死者への手向として贈られてきた身近な自然であったが、現代においては短期的な鑑賞を目的としたプロダクトとして消費され続けている。本作を含む、花のハイパーリアリズム絵画のシリーズにおいてクインはただ花の美しさを賛美してるのでは全くない。むしろ、作られた花という不自然さを描出しているのである。もはや花は自然ではない。園芸品種は野生から切り離され、種をなすことも許されず、人間の生活に彩りを添えるものに作り変えられてしまった。このシリーズにおいてクインは、火山の砂や雪の中などの決して花が咲くはずのない環境に散りばめられた花々を写真に収め、それを精密に描写している。自然を剥奪された花の凍結した時間を描いているのである。品種改良や遺伝子操作を重ねられていく花々は、自らのために他の生命をデザインするという人間の強欲を象徴しているだろう。