Year: 2022
Medium: oil on canvas
Dimensions: 238 x 285 cm (93 3/4 x 112 1/4 in.)
Acquired from Goodman Gallery, 2022
本作は国際芸術祭あいち2022において紹介された4作の1点である。世界的なロックダウンの最中本作は描かれた。常に社会的な抑圧や苦悩を作品に昇華させていく作家であるマザンヴにとって、COVID19の未曾有のパンデミックはジンバブエの抱える社会不安をさらに増長させる不安定なファクターとして制作にも深い影響を与えたことだろう。その葛藤を愚直に吐き出すかのような力強い色彩と筆致が画面を覆い尽くしている。幾重にも重ねられ、下層を次々と消し込んでいくような激しいエネルギーがまざまざと表れている。マザンヴの絵画は抽象でもあり具象でもある。本作でも、この激しい筆致に目が慣れるに従って、人物らしきシルエットの一部が奥底から浮かんでくる。画面の比較的中央部に集まった色彩の塊の中で一際白くまとまった描写が目に止まるだろう。白の中に赤い線が僅かに輪郭をなしているのも見えてくる。おそらくは臀部から足、判然とはしないが身を屈めたり座り込んだような姿勢の人物が複数描かれていた痕跡かも知れない。「The Power of Running Away (逃げる力)」と題されている本作は作家の絵画への姿勢を強く示唆しているように思われる。文字通り抗えぬものからの必死の逃走であるかもしれないが、後方へではなく前に進む力なのではないか。ジル・ドゥルーズとフェリックス・ガタリが述べるところの「逃走線」つまりは困難を迂回していく逃げ道の連なりこそが未来を切り開く力と転じていく、マザンヴの筆致はそういう力を目指した線であるだろう。