Year: 2017
Medium: neon lights, aluminum box, mirror, one-way mirror and electric energy
Dimensions: 121.9 x 121.9 x 25.4 cm (48 x 48 x 10 in.)
Acquired from Christie's, 2022
ナヴァロの作品は批判的な姿勢を隠さない。ダン・フレイヴィンやドナルド・ジャッドなどのアメリカのミニマリズムを参照としながらも、それはその思想への敬意や帰属を意味するのではなく覆すためであることを明言している。なぜなら、冷戦時の社会主義独裁政権下にあったチリで生まれ育ったナヴァロにとって、当時のミニマリズムはチリの危機的状況を作り出した遠因であるアメリカという国を思想的に象徴するものであるからだ。本作は正方形による画面の中に、「Back to Square One」の文字列が各辺に沿って点灯されるようになっている。作品の奥に鏡、表面はハーフミラーになっているため中間に据えられたネオンサインの光は合わせ鏡の原理で、反射率の限界まで縮退しながら幾重にも繰り返される。この正方形を繰り返す相似形の構図は奇しくもジョゼフ・アルバースの表現を思い出させる。イリュージョンや装飾の排除、感情の描出を避け、政治的メッセージのような主観的なステートメントを極力持たないミニマリズムのフォーマットの中に、あえてナヴァロは極端に感情と政治性を言葉にして挿入する。現在ではアメリカに拠点を移して活動するナヴァロだが、理不尽に阻害され、統制され、多くの犠牲を払ったナヴァロ個人の記憶と体験は、チリという国の歴史と不可分に交錯している。「Back to Square One」とは、ふりだしにもどるという意味の成句である。それは願いなのか、警鐘なのか、あるいは絶望なのか、ナヴァロがこの言葉に託した感情を想像して鑑賞すべき作品である。