Year: 1994
Medium: gelatin silver print
Dimensions: 42.2 x 54.3 cm (16 5/8 x 21 3/8 in.)
Edition: No. 8 of 25
Acquired from Sotheby’s, 2022
杉本の作品の中でも初期の重要な作品の一つに、NYのアメリカ自然史博物館の展示物をあたかも実際の風景の様に写したことで始まった「ジオラマ」シリーズがある。本作はその一つで、デンバー自然科学博物館のマナティの親子の標本展示を撮影したものだろう。ジオラマ自体の完成度もあってのことではあるものの、予備知識なく本作品を見れば海中の微笑ましいワンシーンを写真に写したものと誤認するはすである。8 x 10インチの大判フィルムならではの精密さで生々しく写し取られており、同様の「劇場」や「海景」よりもその解像度の精緻さがより強く発揮されている。非生命に生命を吹き込み直す魔術のような表現は蝋人形の「肖像写真」シリーズへも繋がっていく。「ジオラマ」はNYの伝説的ギャラリーであるソナベンドの所属作家となる契機となった他、70年代MoMA写真部門の名物キュレーターであったジョン・シャーカウスキーにも本シリーズを認められて同館のコレクションへ収蔵に至っている。写真が美術として認知されていくにあたってシャーカウスキーの業績は美術史において非常に大きいが、シャーカウスキーの厳しい眼識に優れた作品であると認めさせたことは駆け出しの杉本の写真が既に完成された美意識と技術によって美術品としての価値を備えていたことの証左である。