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Noise-12
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Year: 2022
Medium: acrylic on canvas
Dimensions: 162 x 130 cm (63 3/4 x 51 1/8 in.)
Acquired from White Stone Gallery, 2022
まず離れて本作に向き合う時、真っ黒な下地に、白煙か雲のように白い絵具がゆらめいているように見える。近づいてみると画面を埋めつくすように、文字や記号、数式のようなものが溢れかえっていることに驚かされることだろう。ここまで表意性の強い文字や数字を画面に取り入れている画家も珍しい。絵画においてはその意味性の強さから忌避されがちな文字を、敢えて絵画の一要素として選んでいる。作家が生来の聴覚障碍と向き合ってきたことがそうさせている。文字を音のないただの「形」として認識することは健常の聴覚を持つ人には逆に困難なことだ。想像するに、表意文字である数字が単独で書かれていた時、それを”イチ”とも”One”とも”ひと”とも呼んでも「1」を意味すれば本質的に何の差し障りもないのと同じことが文字にも起こることになる。初めてひらがなを目にする非日本語話者にとってもその困難は同様かもしれない。脳内で「あ」を絶対的に”ア”と聞くことのできる者はそれを”ア”という音として慣れ親しんでいる者だけなのである。自らが無自覚にできることについて、できない他者を理解することの困難はおそらく、当事者のそれの非ではないだろうことは想像に容易い。中村は困難と超克とを可視化するのである。一般に理解される意味での文字あるいは言語として書かれていないこれは、絵画に他ならない。