AYANE EGUCHI
江口綾音

牙 / The fang
1985年北海道生まれ。2011年、金沢美術工芸大学大学院美術工芸研究科修士課程油画コースを修了。ぬいぐるみのクマのような愛らしいキャラクターが描かれ、ふわふわとしたキノコやお菓子のような甘い色彩に溢れた優しい世界、、、であるかのように見えて、実際は死や暴力が絵の中に露骨に存在している。過去には九相図(人が死後朽ちて骨となり最後は塵芥となるまでを段階的に示して煩悩や身体への執着を断つために描かれた、仏教的主題の絵画)を、可愛らしいクマとキノコで表現した作品があるほどである。西洋絵画で言うエロスとタナトスの対比関係に見るような二項対立を前提とした考え方よりは、死と生が繰り返し循環するものとして捉えているようだ。復活ではなく、輪廻である。技法として、重ね塗りによって絵の具の層が厚くなっている。クマのふんわりした体毛の表現は絵具を抉ったかのように立体的に作られている。画面全体は白っぽく濁り、それがどことなく甘ったるい色彩の奥に、猛毒のように鮮やかな色彩が潜んでいるのが目に留まる。死というものはどの文化圏においても観念的に穢れや恐れを導く。人はそれを敢えて対象化することで超克しようとする。江口の作品には、人々がかつて宗教絵画や歴史画に求めたものと似た眼差しを向けられる対象なのではないだろうか。「トーキョーワンダーウォール公募2009」(東京都現代美術館)、2011年「フワ・モコ・サラサ・ラ」(トーキョーワンダーサイト本郷、東京)、2020年「Viscera of the Vast Land」(六本木ヒルズA/Dギャラリ、東京)など。