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生命体について
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Year: 2010
Medium: charcoal, oil pastel, oil on canvas
Dimensions: 200 x 200 cm (78 1/4 x 78 1/4 in.)
Acquired from Hino Gallery, 2024
NYへの遊学から帰国してすぐの70年代から90年代の長きにわたってアクリル絵具のピンクによる表現に拘泥した松本にとって、黒のシリーズはおよそ30年ぶりともなった油彩の絵画である。ピンクのシリーズでは下塗りのないロウ・キャンバスに色彩を多重に含ませていくようにしてフラットかつダイナミックな画面を実践してきたが、それは水溶性であるアクリル絵具の含浸性が多分に作用している。松本にとっての油彩は物質的過ぎたのだろうか、油彩の作り出す絵肌やつややかな質感に度々違和感を唱えている。久方ぶりの油彩作品である黒のシリーズにおいて、実は黒という色はほとんど用いられていない。目が慣れれば、松本の使う黒が無彩色ではないことがはっきりと見えてくる。アンバーやインディゴなどを混色し、更に木炭を加えるなどして作り出されたざらざらとした黒は、油彩ならではの艶やかな色彩や豊かな質感という素材としての利点が拭い去られている。ピンクの絵画同様に朦朧とした掴みどころのないものとしてそれはキャンバスを覆い尽くしている。この靄のような黒の裏側からは時折緑やオレンジなどの色彩が覗いており、松本は黒を豊穣なものとして描いていることがわかる。また、無数の線描が画面上で絡み合い調和を乱しながら激しい流れを作り出している。創世記に世界は混沌から始まったとある(松本は度々旧約聖書を引用する)ように、血管や根のように複雑に捻れあう白と黒の線は、あるいは生命の猛々しい始まりを想像させはしないだろうか。