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untitled (Urushi Series)
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Year: 2015
Medium: mixed media on lacquered panel
Dimensions: 140 x 190 cm (55 1/8 x 74 3/4 in.)
Acquired from SBI Art Auction, 2024
タイトルに見られるように、本作は漆を用いて制作された作品シリーズの一点である。日本では工芸品の素材として漆が広く知られている。日本との関わりを長年続けてその文化を深く理解しており、常に自然に相対して作品を制作し続けているソディが、極めて強靭な天然の塗料である漆を画材として用いることは、彼のダイナミックな作風と親和性が高いように思われる。しかしながらその安易な想像を見事に裏切っている。ソディが漆を用いたのは支持体であるパネルに対してであり、画面に現れることのないいわゆる下塗りとしてである。一度は職人の手によって漆が丁寧に塗り重ねられ艶やかな鏡面に仕上げられたパネルを、わざわざ削って傷を付けて表面を荒らすことで鮮やかな赤紫の絵具を定着させている。漆のおが屑と絵具を練り上げたものが海に浮かぶ小島のように、あるいは赤黒く固まった瘡蓋のように、歪な円形でぽつぽつと配されている。ソディは谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』で漆を知り、桜をイメージした色彩をそこに重ねたという。谷崎によれば、闇においてこそ漆は美しさを際立たせる。見えるか否かの薄明の中でほんのりと浮かび上がる滑らかな情景を賛辞したのである。暗澹とした桜色の奥に荒れた肌理を秘した本作は、目に見えないものへの想像力を豊かに働かしめる。