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untitled
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Year: 2023
Medium: oil on acrylic plate
Dimensions: 45 x 38 cm (17 3/4 x 15 in.)
Acquired from Meet Your Art Festival, 2023
長谷川は、透明なアクリル板に油彩で描く。その多くはアクリル板の両面に対する着彩と描画によって複合的な画面を作り出している。つまり、私たちは長谷川の制作における表裏にわたる双方向性のうち一側面からしか見ることができない。
ある程度透明で平滑なガラスが生産されるようになった中世時代のヨーロッパ以降ガラス絵は盛んに描かれ江戸時代中期には日本にも流入した。しかしそれは平滑なガラス面の「裏」に描かれるため、通常とは着彩の手順が逆行する。ガラス越しに艶やかな彩りを楽しむための絵画の形式であり、キャンバスや板の「上」に描かれる絵画とは異なるクライテリアがそこにある。絵画を裏から支える支持体としてではなく、透明の遮蔽物であるガラス(本作ではアクリル板)は図像から絵具によるマチエールやインパストを喪失させる。
一方、長谷川は意図して表層の描画に強いストロークを用いている。本作においても、人物らしきシルエットの表情は大胆な線の絡まりによって掻き乱されている。その筆の軌跡はアクリル板の上を滑りながら同時に表層の絵具を削り取っていく。その削り落とされた筆跡の中に浮かび上がっている色彩は「裏」にある。長谷川の作品においては図像に対する不可逆性は双方向性に置き換わり、透明性遮蔽物としてのアクリル板は絵画をその両面において支える支持体へと再帰している。