AKIHIRO HASEGAWA
長谷川彰宏
1997年三重県、天台宗系の寺院に生まれる。2009年に得度、2019年に天台真盛宗西教寺にて四度加行を満行。2020年、東京藝術大学デザイン科を卒業、同年より同大学院美術研究科デザイン専攻に在籍。長谷川は自身の僧侶としての仏教観が自身の表現の根底にあることを否定しない。一見するとそのように見えない表現が多い。しかし具に読み解いていくと全ての表現に何かしらの信仰や仏教的な思想を含んでいることが分かる。宗教絵画の本来的な役割は教義を視覚化して伝え広めるという、伝導と信仰の意志によって描かれるものであるはずで、読み解かれるものでなければならない。その点長谷川は現代的な手法でその宗教絵画的リテラシーを体現している。どのように描けばどのような視覚効果が生まれ、それによって鑑賞者にどのような心理的作用をもたらすかを理論的に分析しながら描いている。抽象表現においてその視覚効果の検証をさまざまに行っており、一方の具象絵画においては新しい寓意を自ら作り出しそれを繰り返し描くことで体系化しつつある。長谷川の作品は相反するものが同時に対象化されている。例えば生と死のような重たいものだけではなく、色彩も両極端な赤と青など、大小、明暗、喜怒、哀楽。両義性と相対性の中間に立って、自らと鑑賞者に対して自問を促すようである。仏教的に言うならば二項対立を論じること、哲学的に見れば判断力(理性や悟性)についてを思考する態度である。現代美術には概念(concept)が必要だとされるが、長谷川の作品は観念(idea)を論じる現代美術なのである。