-
Susu
-
Year: 2023
Medium: oil on linen
Dimensions: 60 x 80 cm (23 5/8 x 31 1/2 in.)
Acquired from ROH Projects, 2023
さまざまな図像を引用し、それらをコラージュするかのように複合させた絵画を描く今津。本作でも全く絵肌の異なる要素が混ざり合っている。人の腕、そして女性の胸部を思わせる柔らかな描写は古い西洋絵画のようだ。色づけられている部分は多くはなく、薄い青から灰色の濃淡で構成された粗いグリザイユを思わせる。中央には古代魚から人までの生物が図鑑の挿絵のような簡潔な素描で描かれている。私たちヒトがどのような進化を辿って今ここに存在しているか、生物学上の分類でいうところの動物界における哺乳類へ至るまでの系統樹を遡ればその枝端は今津が本作に描いたような過程を示している。哺乳類という分類名が示す通り、私たちヒトを含むそれらの動物群は母から乳を受けて育つ。宗教絵画の題材に『ローマの慈愛』と呼ばれるテーマがありルーベンスなどが好んで描いたことで知られる。獄中で餓死刑の責めを受けていた年老いた父キモンは、なりふり構わず駆けつけた娘ペローによって乳を与えられ死と咎の苦しみから救われる。母から子へ、その滋養と慈愛の象徴である乳は、子から父親へ生命と尊厳を取り戻させるためのものとして描かれた。本作では、腕によって胸に抱かれるべき人物の姿はない。その代わりに根源から脈々と受けつがれてきた命の徴として、進化と共に発達してきた腕の骨を克明に描いている。それはヒトが腕によって他者への慈愛を示すことを進化の過程で選択してきたことの証左である。「Susu」とは、今津が住むインドネシアで乳を意味する。