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untitled
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Year: 2013
Medium: acrylic on canvas
Dimensions: 200 x 130.3 cm (78 3/4 x 51 1/4 in.)
Acquired from Christie’s, 2023
グロッセは絵画の平面性を超越して空間に絵画を存在させようとしている。フォンタナが裂け目の奥に広がる次元を絵画に取り入れ、ステラが矩形から絵画を解放し、いよいよ絵画が平面という支持体ばかりに依存しなくなった現代においてはさまざまなメディウムが試みられた。エアロゾルは70年代以降ストリート以降盛んに用いられ始めるが、カラー・フィールドの作家ジュールズ・オリツキーや同時期にNYにいた草間彌生などは60年代既にスプレー・ガンを用いた描画に取り組んでいる。こうして、色彩を対象物に向けて「噴霧」する行為は絵画のメディウムとして取り入れられてきた。グロッセの一部の作品では色彩を噴霧することによって生じる陰陽の関係性が可視化されている。色彩の射出を遮蔽する物体を置くことによって色抜けとして示す、つまり、陰刻的な絵画を実践してみせている。本作ではその傾向が明らかに表れていると言えるだろう。型紙のようなものを段階的に画面上に置き換えながら、その上から色彩を吹き付けている過程が想像できる。そして、その「着彩されなかった」各レイヤーごとの色抜けエリアこそが、図像なり形象なり構図なりの「絵画らしさ」をもたらしている。畢竟、本作の本質であるように見える鮮やかな色彩は、この観点においては絵画の余白を意味するとさえ言えるかもしれない。絵画の図と地の関係性におけるポジティブとネガティブを反転させるこの試みによって、イリュージョニズムが克服される。それは、グロッセが平面性に拘泥せず、空間を射程において描画を展開していくことと思考の根は等しい。