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Franny and Zooey
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Year: 2023
Medium: Oil, flashe vinyl, pencil on canvas, framed
Dimensions: 76.2 x 63.5 cm (30 x 25 in.)
Acquired from MAKI Gallery, 2023
サリンジャーが書いた小説に同名の連作がある。理想と現実の端境で苦悩する青年とそれに寄り添おうとする家族の少し不器用な愛が描かれている。悩めるFrannyは妹で、寄り添うZooeyは兄だ。カミジョウは、プードルを描き続けている画家だが、本作でも見られるように近年は具体的な造形の描写ではなく簡略と強調の双方を大胆に織り交ぜて描いている。プードルの特徴的な体毛のカットをディフォルメした直線と曲線の組み合わせに、均一な色面が塗り絵のように入れられている。そのオレンジと紺の強い対比は二頭の性質の差異を想像させる。表情に目を向けると、それがカミジョウの絵画なのだからプードルだろう、という推測の元に見ればこそこれは犬らしく見えるのだが、目、鼻、髭、牙、またそれらが構成する顔面上の陰影や凹凸が、誇張されあるいは簡略されて、本来の犬の顔からはかけ離れてまるで人のようにも見える。つまり、カミジョウは犬を描きつつも、犬の似姿を求めているわけではないのだろう。人間社会に最も馴染んだ動物の一つである犬、その飼い慣らされた姿に人間の精神が潜像として滲んでいることを示唆しているように思われる。サリンジャーの小説では仏教などの東洋思想まで絡めながらさまざまな精神論が交わされる。心の置き場所に悩み苦しむ妹はやがてその対話の末にわずかな光を見出して微笑むのである。ぶつかり合い、寄り添いあって、いつしか若い苦悩は乗り越えられる。