Taxis Groove #3
Year: 2023
Medium: Urushi lacquer, hemp cloth (Kanshitsu: dry lacquer technique)
Dimensions: 43 x 36 x 31 cm (16 7/8 x 14 1/8 x 12 1/4 in.)
Acquired from Kyoto City KYOCERA Museum of Art Charity Auction, 2023
漆は日本においては高い耐久性、強い接着性、官能的な美観を兼ね備えた稀有な塗料として縄文時代以降数千年にわたって人々の生活と共にある。特に、石塚が用いる乾漆技法は高い塑型性を有するため、天平時代の仏像制作などにも用いられた。石塚は漆の強靭かつ柔軟な素材としての性質を彫刻のメディウムとして再認識し、極めて特徴的な塗膜を形成する点にも着目している。漆は油絵具のように酸化重合反応によって硬化する。成分中の酵素は梅雨時のような多湿条件の中で反応を繰り返し内側から塗膜を形成していくのである。これを石塚は「皮膜」と呼んでいる。石塚の代表的シリーズとなっている「感触の表裏」では、店先で網に入ったミカンが売られている様子からインスピレーションを得たというが、ミカンを包む網とは、人に置き換えればそれは皮膚であるから、石塚の作り出す艶やかな曲面の内側に隠された造形の源はつまり肉であり骨であるとも言える。実際には発泡スチロールの球体などで作られた素体の上に、麻布と漆を重ねがけて固めた外殻こそが作品となるのだが、この「皮膜」とは内側に包まれたものの存在を示唆するものである。本作は「感触の表裏」から派生したと思われる「Taxis Groove」というタイトルがつけられているが、そこから連想される通り内包する造形は球状ではなく円盤状の連続である。今にも蠢き始めるのでは、とさえ見える。幾層にも重ねられ、磨かれた漆は、透けるような光沢の奥に美しい斑を見せている。そのさらに内側にある今にも皮膜を突き破らんばかりの強い運動性とは対極的な静寂がある。
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