Year: 2020
Medium: acrylic on canvas
Dimensions: 150.2 x 147.3 cm (59 1/8 x 58 in.)
Acquired from Phillips, 2023
マティスの「ダンス(II)」(1910年制作、エルミタージュ美術館蔵)の複製版画が、鮮やかなピンクの壁に掛けられている。木の手すりに黄色い踏み板の階段を登るのは赤いヴェールが印象的な一人の女性だ。彼女が上る階段の角度に、マティスの「ダンス(II)」は平行になるように傾いている。タイトルを読むと「Not a Time to Dance」(踊っている場合ではない)との副題が付けられている。傾いだマティスと深刻な眼差しの女性の表情、それらは確かに何かに抑圧された状況を示唆しているようにも思われる。マドゥの絵画は時折、美術史上の重要な作品などからエッセンスを拾い上げて作品に潜ませることで、作家が現在も活動の拠点とするナイジェリアの現代的な諸事情に関するメタファーとして機能させようとしている。マティスのこの名画はロシアの著名蒐集家であったチューシキンのために描かれ、「音楽」という作品と並んで展示されていたものだ。ウィリアム・ブレイクの類似するモチーフとの関連性も指摘されており、ブレイクの絵画ではしっかりと繋がれていた左手前二人の手は、マティスの絵ではわずかに離して描かれている。マドゥがこの象徴的なモチーフの連続を意識しないことはなかっただろう。この絵には、一人階段を上る彼女を踊りに誘う手は描かれていない。