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Command Blue
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Year: 2022
Medium: oil and acrylic on aluminum panel
Dimensions: 80.3 x 116.7 cm (31 5/8 x 46 in.)
Acquired from KOTARO NUKAGA, 2023
猪瀬の代表的なシリーズである「Pool」に属する一枚として描かれている。光と空間を画一的にする真っ青な空を背景に、極めて強い水平垂直を示す廃墟ビル、コンクリートの路面、レンガ塀、影、草地、そして水が描かれている。流れを感じさせないそれは川や湖ではなくおそらくはプールなのだろう。遠近感を狂わせる平坦で平滑な画面である。雲ひとつなく水の揺らぎすら見えないこの絵からはまるで音を感じない。どこかに人が存在するかもしれない、などとは微塵も想像させないだろう。構造と色彩のみが存在する果てしなく虚ろな場所のように見える。廃ビルの割れた窓の向こうに見える青は果たして本当に空だろうか?猪瀬の見事な写実性は、時折それが故に現実感を喪失させる。ありうべからざるものを克明に写実するのであるから、極めて反語的態度と言える。廃屋と化したビルの直下に手入れの行き届いた極めて長閑な水の景色が広がっている様子はあまりに非現実的でディストピア感がある。猪瀬はかつてユートピアを題材とした個展を開催しているが、その理想郷は逸脱した非実在性によって理想郷であり得たのであり、その逆もまた同様である。プールは遊泳するための施設であり、人の存在があってこそである。おそらく誰一人泳ぐ人のいないこの世界において、なお美しく保たれているプールの存在意義とは何か?対比的に、朽ちるにまかせて放棄された存在として描かれている廃墟がこの世界に横たわる異常性をより際立たせている。本作は上海の宝龍美術館における日本現代美術作家を紹介した「Under Current」(2022年)に出品された。