Year: 2022
Medium: acrylic on canvas
Dimensions: 97 x 162 cm (38 1/4 x 63 3/4 in.)
Acquired from KOTARO NUKAGA, 2023
画面中央に平子作品の象徴的モチーフである「彼」が、両手をズボンのポケットに入れて立っている。赤い靴と白いシャツに黒いパンツのスマートな佇まいはどことなくシリアスな雰囲気を感じさせる。周りを取り囲む植物たちはどうだろうか。どことなくしんなりとして生気に欠けているように見えるのは気のせいだろうか?それぞれ彩り鮮やかな植木鉢に植えられており、主役であるはずの植物達の緑は、激しい色彩の中で相対的に影のように暗く沈んで見える。濃い青みがかった空は夕焼けか、朝焼けか、朱色の光が混じり、強い色彩の対比が不安感を煽る。平子は自然と人との関わりについてを作品制作の通底したテーマとして据えている。人の手によって作られた鉢は人や人間社会の象徴としての意味が読み取れる。仮にそうだとすれば、そこに弱々しく植わっている植物たちは、牙を抜かれ飼い慣らされた自然の象徴ということになる。それらの中央に立つ人と植物の両側面の特徴を併せ持った「彼」は、その両者の境界にある存在として描かれる。空の色の明らかな対比を見てもそうであるように、平子の絵画には常に対立構造が隠されている。一方では人間が自然を調伏して築き上げてきた文明社会が繁栄し、他方では人智を超えた暴威によって容易に文明を破壊する力を秘めた自然がある。人はなぜその脅威に対して親しみを得ようとするのだろうか。それが畏怖の対象であればこそ管理下に置くことで自らの恐れをこそ調伏したいのだろうか。平子の作品から、人間社会を取り巻く大きな問題系へと思考が広がっていく。本作に付けられた「Lost in thought」とは物思いに耽るという意味だ。本作における「彼」が恐らくそう描かれているように、人間は思い悩みながらも自然と共に生きていかねばならない。