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Untitled
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Year: 2022
Medium: acrylic on canvas
Dimensions: 201 x 155 cm (79 1/8 x 61 in.)
Acquired from Gagosian, 2022
スプレーガンを用いた作品は、今やグロッセのシグニチャーであると言える。本作では、キャンバスの上に蔦状のものを置いてから色彩を吹き付けている。ステンシル、あるいはサイアノタイプのように画面に触れた物体の痕跡を直接的に残すという行為はこれまでのグロッセの制作からも裏付けが得られる。建築物や空間に対して色彩を強烈に噴射することで、グロッセの絵画はキャンバスという平面的な媒体から三次元へと延伸し、自らと鑑賞者のいずれをも絵画空間へ物理的に没入することを実現してきた。絵画とは鑑賞者と作者の間にあって両者が互いの思考を見せ合うためのスクリーンなのだ、とグロッセは語っている。思索のインターフェイスとしての絵画である。そのコンセプトに従えば絵画=スクリーンは必ずしも従来の絵画らしい姿であることに囚われる必要はない。作者と鑑賞者の交感、そのためによりふさわしい新たな手法と形態をグロッセが選び取るのである。本作で言えば、画面の中で最も主張の強い線の要素を、痕跡というおよそ非絵画的手段によって獲得している。霧状の色彩がその噴射の角度や強度によって鮮やかなグラデーションを作ると同時に、線の影をキャンバス上に焼き付けている。その線はキャンバスから引き剥がされる時、絵具を諸共に食いちぎって生々しい傷跡となって表れたのだ。これは、描かれた線とは異なる。かつて絵画は絵具を重ねて光をあまねく写し取ろうとするものであったが、グロッセは本作において鮮やかな影を傷として残したのである。絵画とは互いの思考を交わすためのもの、とグロッセは述べた。ならば本作に残された痕跡に対して私たちは何を見、そしていかなる思考を返せば良いだろうか。