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Art d'Ameublement (Rutschey Yogansena)
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Year: 2022
Medium: spray acrylic, thermoformed PETG
Dimensions: 182.9 x 137.2 cm (72 x 54 in.)
Acquired from The Pace Gallery LLC, 2022
「Art d’Ameublement」シリーズは今やジャカード織の「Negative Entropy」と並んでタジマの代表作と言って良い。熱成形した透明なPETG樹脂製のボックス内部に噴霧された絵具が、まるで気体のまま封じられてしまったかのように見える。タイトルはフランス語で「家具の美術」という意味合いになるが、これはエリック・サティの「家具の音楽(Musique d’Ameublement)」から採られている。サティが「意識的に聞かれることのない」音楽を目指したように、タジマも本作において意識して見てはいけない何かを形にしたのだろうか。副題にある見慣れぬ名詞は、空想上の島の名前だという。未知の島の空気を閉じ込めた、といったところだろう。角のない滑らかな光沢を伴った造形は気体を内に孕んだ風船を思わせる。作品の内側にごく薄らかに固着している色彩は、間近にみれば噴霧の粒子が目に見えるほどに密度が荒くどこまでも軽く、作品を壁から外した瞬間に中のそれは霧散してしまうのではないだろうか、と錯覚させる。かつて、マルセル・デュシャンは「Air de Paris」と名付けた空のガラスアンプルを作品として提示してみせたが、それは本当にパリの空気だっただろうか。デュシャンのそれはサティのように「認識されない」表現ではなく、誰もが正しく「認識することができない」表現である。タジマの作品に閉じ込められた未知の島の気体も同じく、作家からそれが何であるか確かめる術を与えられていない以上、私たちはただ思考し想像するという人間のみに許された知的な活動をもってそれに向き合う他はない。それは純粋な芸術の形を示すだろう。