Year: 1989
Medium: gelatin silver print, unique
Dimensions: 67.9 x 97.8 cm (26 3/4 x 38 1/2 in.)
Acquired from Phillips, 2022
リヒターのユニークピースとしての写真作品というのは非常に珍しい。なぜなら、リヒターは写真と絵画の関係性を誰よりもセンシティブに捉えている作家であるからだ。自身の作品を複写したものはいくつか存在し、フォト・ペインティングの有名な一点「Ema (Nude on a Staircase)」(1966年制作)も写真に収められたものを作品として発表している。本作品もおそらく抽象絵画シリーズを複写したものの一つであろうと思われる。リヒターのフォト・ペインティングは、写真が最も「写真らしく」見える表現としてブレやボケなどを取り上げて、絵画でそれを忠実に再現して作られている。つまり、写真としては失敗にあたる、写実らしくないぼやけた表情こそが、写真において頻繁に起こり得る現象として広く認知されており、人々はそれを「写真らしさ」と感じるのである。リヒターはこの「写真らしさ」という新たなイメージのあり方を絵画表現に再輸入しているのである。そして、それを再び写真へと戻す、このイメージの往還こそがリヒターの写真作品の持つ必然性であると言えるだろう。