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逃走する光 / Escaping Light
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Year: 2017 / 2022
Medium: oil, wood
Dimensions: 25.5 x 25.5 x 25.1 cm (10 x 10 x 9 7/8 in.)
Acquired from Mitsukoshi Contemporary Gallery, 2022
立方体の木材を雛壇状に二分割したような造形をしており、表面にはオレンジ色の塗装が施されている。塗装といってもそれは荒い木目や割れなどの木という素材の表情を覆い隠すほど分厚いものではない。それによって、木のどっしりとした重量感や手触りが視覚情報として伝わってくる。直近に見れば、明るいオレンジ色によって感じる色彩的な軽やかさと相反するような、硬さ・重さがはっきりと感じ取れることだろう。造形面から見れば、手仕事を感じさせる温かみや歪みが見られるとはいえ、シンプルな階段状であること以外にこれといって特筆すべき特徴は見出せない。形そのものがたいして多くを物語らぬ一方で、「逃走する光」というタイトルが付されていることに思考を向けながら見ることで、俄かに想像力が掻き立てられるはずだ。階段というものは山や建築物等において上昇や下降を担う構造物だが、それによって、ここではない別の場所への移動という象徴性を見出せる。しかし、それも階段を挟んでその上下に眺望があるとかフロア空間があるといったような前提があって初めて成り立つ。本作においてはその前提が未提示のまま、ただ、過渡という中間状況を意味する階段のみが目の前に突きつけられる。そこに何かがあるのだと期待を込めて目を向けた私たちは、ただ目を向けただけではどこへ向かうともどこから至るとも一切を物語らないこの作品の本質を捉えることはできない。光とはその存在を目視し認識することの謂に他ならない。ドゥルーズらが述べる通り、逃走とはいつまでもそこに停滞していては見えない新しい道筋を開くことと同義でもある。となれば、本作を見るにあたり、目を向けるべきはこの造形の内にとどまっているものではなく、そこを通り抜けていくものを想起しそれらが残していく軌跡の行先だろう。