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Negative Entropy (Stripe International Inc., Legal Department, Black and White, Hex)
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Year: 2021
Medium: cotton, wood, acoustic baffling felt
Dimensions: 140 x 280 cm (55 1/8 x 110 1/4 in.)
Acquired from TARONASU, 2022
田島の代表作である「Negative Entropy」シリーズ。本作はその中でも「Hex」と呼ばれる6面のパターン構成からなる大型の作品である。このシリーズには幾重にも掛け合わされた意味がある。まず、タイトルにある通り「Negative Entropy(負のエントロピー)」という難解な熱力学の概念をベースとしている。量子力学で有名なシュレーディンガーが『生命とは何か』という論文の中で「生命は負のエントロピーを食べる」と書いて物議を醸したことに着想を得ていると思われる。田島は本作を特定の場所で録音した環境音を解析したスペクトログラムの図像をジャカード織で制作している。音源の採取地には何かを生産する場所が選ばれる。そこで何らかの生産行為に対して副次的に発生する音とは、まさに無秩序の状態=高いエントロピーを有するものだと田島は認識しているのだろう、それを図形化し、織物として定着させていくことで低いエントロピーへと変換していく行為である。ここにおいて田島が作品を制作する行為は、本来その環境には介在するはずのなかった外的な要因(エネルギー)に他ならず、田島が空間に散乱した音を拾い集めて一枚の作品という安定的な状態へと変化させていく、つまりその場のエントロピーを負の方向へ導くのである。素材に目を向けると「acoustic baffling felt(吸音フェルト)」を用いているとある。音に起因する作品を、音を無化する素材に置換するのである。さらに、田島は度々本シリーズについてアコースティック・ポートレート的な行為であると述べているが、それは「聴覚的な描出」といった意味合いになるだろう。本作の視覚的な様相は副次的なものであり、作品の本質は聴覚的に対象を捉えた事実にこそあるということだ。