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slime CXXVII
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Year: 2022
Medium: oil on canvas
Dimensions: 41 x 31.8 cm (16 1/8 x 12 1/2 in.)
Acquired from Ginza Tsutaya Books, 2022
友沢は、自身の顔面や人形などにスライムを掛けた様子を題材とした絵画を制作している。友沢は質感の描写にこだわり、スライムの流体と個体の中間的な粘性、艶や透明感を巧みに表現する。本作は鼻から口にかけてをクローズアップしたセルフ・ポートレートであるが、鼻腔と口腔をスティックゼリーのような形状のスライムが循環しているように見える。スライムに顔を覆われるという状況下では、顔に集中している視覚、嗅覚、味覚の感覚と、呼吸が著しく阻害されることを意味する。感覚や呼吸が妨げられる擬似死的な体験によって、かえって生を実感するという側面は友沢の作品において重要な点であるように思われる。友沢は自らそれを体験した上で作品を描くことで技術的な写実性以上の現実感が画面に現れており、この阻害のリアリティが鑑賞者へと共鳴するのである。
スライムによって何かを覆う、あるいは隠す、という性質的な観点から考えれば、友沢にとってスライムは仮面のような働きをしているのかもしれない。仮面で素顔を覆うことで、別人格を演じたり、心理的な抑圧を回避することはある。本作のように顔の造形を変じるような行為も同義と捉えて良いだろう。ユングはまさに仮面に準えて人格の外面的な側面をペルソナと呼んだ。ただ、その仮面は外そうにも目には見えず、手で触れることもできない。不可知の仮面を脱ぎ去り自らを抑圧から解放するために、友沢はスライムを被る自らを描いてその取り去るべき内面的な仮面を可視化するのである。