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Respiration
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Year: 2022
Medium: oil on canvas
Dimensions: 130 x 162 cm (51 1/8 x 63 3/4 in.)
Acquired from MtK Contemporary Art, 2022
「Respiration」(呼吸)という題名が付けられている。坂本は水草の栽培を長く続けており、ここで描かれている緑色の流動するモチーフは水草に着想を得ている。水草を含む植物は光合成に加えて、呼吸も並行して行っている。一見まるで異なる生命体である人と水草は、呼吸という点に限定すればさほど遠からぬ代謝活動によってそれぞれの生命を維持している。坂本にとって、日々目にしているアクアリウムの中で繰り広げられる水草たちの生存競争は人間のそれと重なって見えるのだろう。水草にとって育成環境の整ったアクアリウムであれば定期的な剪定や間引きなどの管理を怠ればあっという間に繁茂する。確かに、水槽の中で限られた光と栄養素を奪い合いながら各々の性質や形質に最適化された生存戦略に従って成長を続けていく水草の様子は、人の社会でいえば経済活動や都市の形成にも似るだろう。画面全体に描きこまれた水草は、葉と葉の間には別の葉があり一分の隙間もなく繁茂している。一つ一つの葉はごく細い筆を用いて、微細な線描を積み重ねて描かれている。線よりは点に近い。それによって、画面に小さな起伏が無限に繰り返されて毛羽立つような質感がある。この無数の小さな筆触は坂本の絵画では際立った特徴だろう。水草の中で細胞が代謝を繰り返し、日々生長し増殖していく様子を静かに見つめる坂本の眼差しを思わせる。緑一面の全体の印象からすれば、青や緑、紫、黄色、と使われている色彩は意外に多彩だが、この荒い点描のような画法によって隣接する色彩同士が柔らかく馴染んでいる。また、葉脈の線と葉のシルエットが複雑に絡み合い、全体の構図がさも水に揺らいでいるかのように予測不能である。坂本の絵画は繁殖や増殖という、躍動する生命のイメージで溢れている。この繁茂する水草の躍動感溢れる絵によって、「呼吸」すなわち、息吹とそれによるエネルギーの循環、ひいては人と水草の間に跨る生命の類型を描き出している。