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夜のうず / Night Swirl
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Year: 2012
Medium: oil on canvas
Dimensions: 181.8 x 227.3 cm (71 1/2 x 89 1/2 in.)
Acquired from Tomio Koyama Gallery, 2022
桑久保の作品は、海辺の景色が多く描かれる。活動の初期には架空の画家を演じつつ海辺にイーゼルを立てて描くというような活動をしてきた作家だからか、大半の作品は空と海、そして浜辺を舞台としている。本作ではタイトルの通り、夜の海を望む景色だが、手前の浜には何故か広いデッキのような床面が広がり、彫刻のような人物像やさまざまなオブジェクトが点在している。そして、それらから立ち上る煙のようなものが夜空に無数の渦を作り出している。絵具を分厚く塗っていく物質感のある筆触はさながらゴッホの作品のようだ。渦の描写や暗い空の様子がそう思わせるのかもしれないが、有名な「星月夜」や「糸杉、ひまわり、星降る夜」などの作品を思い出させる。海面を横切るピンクとオレンジの閃光は画面左端の街の明かりの反射光から延伸して、画面中央に差し掛かるや突如人工的な直線を示して異様な様相である。この描写を目で追うにつれて、風景は桑久保という幻視者のヴィジョンへと劇的に移り変わる。
白い台座に乗った人物像の多くは手で顔を覆う仕草をしている。美術作品としてはパリのチュイルリー庭園にあるアンリ・ヴィダル作のカイン像で有名なポージングだが、まさに後悔や落胆、悩みを表すジェスチャーだ。であれば、彼らから吹き出しているように見えるこの黒々とした渦は、彼らの心の中で逆巻く暗い感情を示しているはずだ。かの苦悩の画家を彷彿とさせるこの夜空は、その暗さを飲み込んでくれるだろうか。
本作は2012年「あざみ野コンテンポラリーvol.2 Viewpoints いま『描く』ということ」(横浜市民ギャラリーあざみ野)に出品された。