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SYMPHN-N.9-2-BaCK5
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Year: 2022
Medium: paper, ash, oil on canvas
Dimensions: 193.8 x 259.2 cm (76 1/4 x 102 in.)
Acquired from rin art association, 2022
まず、明暗の揺らぎを作りながら垂直方向に流れる水のような青が印象深い。そこに数多くの譜面が貼り付けられている。それらはキャンバスごと焼かれたのだろう、ところどころ灰になっている。南はアルゴリズムと呼ぶ独自の絵画構築システムを取り入れており、偶発性よりも論理性に基づいた結果としての抽象絵画を制作している。本作では、加えてバーナーによって画面を焼くというシリーズであるため、アルゴリズムのみによる絵画よりも炎の燃焼に任せた不確定性を加味した作品になっている。画面に貼られた譜面は、ドヴォルザークの交響曲第九番「新世界より」の第二楽章のようだ。「新世界より」の第二楽章といえば「家路」の邦題で知られ、オーボエによる郷愁を誘う主題が特に有名な楽章である。譜面を読める人が本作を見たならは、音が脳裏に響いてくるだろう。深みのある青い画面と、たくさんの灰によってザラついたマチエールが、「家路」のメロディをよりもの悲しく感じさせるように思われる。譜面を焼くという行為には焚書を思い起こさせるような強い暴力性を孕んでおり直視することを避けたくもなるが、おそらくそうした負の感情によってではなく、南にとってこの焼失という現象は、音楽という芸術が持つ一回性、つまり本質的には繰り返したり形として残すことのできないその場限りの美的体験であることの象徴だろう。その点において、本作品は抽象という概念を扱っているのである。