Year: 2017
Medium: acrylic, epoxy resin on plywood
Dimensions: 68 x 121.5 cm (25 1/4 x 48 7/8 in.)
Acquired from Sotheby's, 2022
山口の代表的シリーズである「Out of Bounds」の一点。振り抜いたストロークによって作り出される絵具の飛沫がそのまま中空で凍りついたかのような形状は、今や山口作品のシグニチャーとなっている。「Brushstroke」(筆致)が絵画の一構成要素ではなくそれそのものが絵画足り得ることを示すものだ。かつて、ポップ・アートの旗手ロイ・リキテンシュタインが「Brushstroke」シリーズを制作しているが、それはとあるコミックの中で描かれた「絵画」を示す描写を盗用し、リキテンシュタインの手によって絵画や彫刻として提示し直したものだ。絵画を表すべくそれらしくディフォルメされた漫画の描写を、リヒテンシュタインは真に絵画へと置き換えることで「絵画」を批評したのだ。類似する思考の先行例があるとすればニューヨークの抽象表現主義のポロックらが見せた絵具の物質性が挙げられるが、それらはあくまでキャンバスという支持体に依拠したままであり、矩形を逸脱したステラは絵具の流動性からは離れていく。また、リキテンシュタインの狙いは絵画とコミックという異なる形式間における表現の相互性や、絵画における複製や平面性に対する思考の表れであった。対して山口は先達の残した成果を踏まえた上で、絵具という素材それ自体が絵画として自立しうる可能性を本シリーズにおいて示したことは高く評価されるべきだろう。