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懺悔、来迎、祈り。あるいは地平線 / Repentance, Raigō, Prayer, or the Horizon
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Year: 2022
Medium: oil on acrylic board, mounted on wood panel
Dimensions: 162 x 194 cm (63 3/4 x 76 3/8 in.)
Acquired from √k contemporary, 2022
長谷川の出自が仏教寺院であることを差し引いて見ても強烈な印象の作品である。長谷川によれば本作は来迎図であるという。来迎図とは、仏教において信仰の道に篤い人物が臨終を迎える間際に阿弥陀如来が大勢の菩薩を伴って浄土へ迎え入れるために来訪する様子を描いたもので、京都国立博物館の「阿弥陀二十五菩薩来迎図」(国宝)など宗派や時代によって数多くの図が残されている。長谷川の作品は具体的に来迎図と分かる特徴があるわけではない。「来迎」と「往生」という仏教的な概念を再解釈し、絵画(西洋的な意味での)への転換を試みているのだろう。まずは、色彩と光である。「阿弥陀二十五菩薩来迎図」では上品な光に包まれた阿弥陀如来の体や衣服、飛雲の表現が金泥によってなされているが、本作はといえば、全体的に透けるような青、そして人物は蛍光に発光しているかのような描写がなされている。長谷川は透明なアクリル板を絵の直接の支持体としており、しかもその両面から描く。バックボードは白く、アクリル板を透過した光が反射してバックライト(仏教用語に言い換えれば後光)として絵の後背から柔らかく発光するように見える。アクリル板の前後の色彩は光を含んで重なり合い、その混合色を合成している。さらに、意図的に色のハレーション効果や補色関係を多用することで特定の部分が蛍光発光をしているような錯覚を誘引するのである。大きく描かれた人物は悟りを開いた(如来)状態、ごく小さい人物は膝を地について未だ迷いの渦中にある状態を示す。人間の精神的な成長過程を描いた物語画であるとも、宗教的な悟りへの過程を示した宗教画とも言える。この迷える人物は、長谷川が特に心を打たれた華厳経に記されたある逸話を主題としているという。苦心惨憺の末に自らの導き手となる教導者を見出した瞬間の、絶望から希望への転換の瞬間である。