TOMOKO NAGAI
長井朋子

お姫さまの部屋 / Room of a Princess
1982年愛知県生まれ。2006年愛知県立芸術大学美術学部美術家油画専攻卒業。長井の作品は、自身の幼少期の遊びや人形のコレクションなどを原点としているためか、大切なものに触れる時のような慈愛と親しみに満ちた眼差しを感じさせる。時に、劇場のようなと形容される絵画は、お気に入りのモチーフを次々と登場させるまさに舞台のようである。この舞台に上がるのは、まず少女、動物(ぬいぐるみも)、植物があり、それらを煌びやかに引き立てる装飾的な物の数々がある。柔らかく触り心地の良さそうなファブリック、キラキラしたオブジェなどに取り囲まれた主人公たちは、誰の邪魔も入らないプライベートな幸せに満ち足りた様子で佇んでいる。作品に使用される画材を描く内容に応じてさまざまに使い分けている。装飾的な部分には物質性をより強く、光が欲しければラメや金、銀、パールなどの光を直接的に取り入れる。ただ可愛らしいだけならば、ひたすらにそれらしいものを集めて描けば良いが、長井の絵はそれだけでない魅力を備えてもいる。愛嬌の中に時々見せる微量の毒、あるいは棘は中毒性がある。最も多く描かれる少女たちは、なぜかいつも無表情に近い控えめな表情を湛えている。長井の楽しげな世界観の中に一抹の寂しさや物悲しさを覚えるのは、描かれている情景があまりにも夢想的で非現実的な心理的遠さから来る切なさだけではなく、彼女らのこのアルカイックな面持ちによるところが大きいだろう。東京都現代美術館、愛知県美術館、豊川市桜ヶ丘ミュージアムなどの他、国内外の著名コレクションに所蔵され、近年では特に日本国外での発表機会が続く。2010年「VOCA 2010」(上野の森美術館, 東京)、2011年には第54回ベネチアビエンナーレに付帯する展覧会として開催された「Future Pass - From Asia to the World」への招聘、2022年には上海の宝龍美術館において開催された「Under Current(伏流)」にも参加している。