Year: 1999
Medium: color Xerox print of reworked woodblock
Dimensions: set of 16, 41.5 x 29.5 cm (16 3/8 x 11 5/8 in.) each
Edition: 13 of 50 + 10 A.P.
Acquired from Pace Gallery, 2025
浮世絵の画集のページに色鉛筆や絵具で加筆した作品が16作あり、本作はそれらを原画とし、木版画ならぬゼロックスコピーによって複製したもの。それぞれ背景とされた浮世絵は著名なものばかりで、例えば、北斎の「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」に加筆した「Slash with a Knife」では、図版を90度回転させ、有名な鉤爪様の波濤は乱れ髪に置き換えられている。同様に16作全てに個別のタイトルが付されている。金魚玉を持った美人画の鳥高斎栄昌「若那屋内白露」は艶やかな髪かんざしならぬ釘が四方に飛び出した頭で描かれ、渦潮を花とも見立てる広重「阿波鳴門之風景」は海坊主のような「Ocean Child」が海峡に立っている。歌川国貞「当世三十弐相 世事がよさ相」は口腔ケアをする女性が手にする嗽茶碗に「一寸法師 / Cup Kid」が入っている。写楽「市川鰕蔵の竹村定之進」ならスタッズ&モヒカンの「Punk Ebizo」といった具合で、タイトルを手がかりに下地となった浮世絵と奈良の描画を比べてみるだけでも楽しめる。浮世絵は多版多色刷りの世界的に見ても優れた技術によって作られたものだが、一点ものの肉筆がとは異なり大量に複製がつくられ、大衆向け商品として広く気軽に楽しまれたもの。現代(制作時なら90年代の終わり頃になる)における浮世絵・版画的なアプローチ、という観点で奈良がゼロックス・コピー機を選択したことは単なる悪戯というわけではないはずだ。奈良が長年過ごしたドイツを代表する作家の一人であるS.ポルケの例は出すまでもなく、60年代コンセプチュアル・アートの代表作家たちによる「The Xerox Book」や、アルテ・ポーヴェラの代表作家A.ボエッティによる「Nove Xerox AnneMarie」(1969)など、奈良に先行する作家たちのさまざまな実験的取り組みについての理解があるからに違いない。