Year: 2022
Medium: acrylic, pure gold leaf(24K), dioptase pigment, linen on panel
Dimensions: 90 x 90 x 6 cm (35 3/8 x 35 3/8 x 2 3/8 in.)
Acquired from MtK Contemporary Art, 2022
画家自らの名を冠する作品。通常、自画像あるいは画家として自らの根幹を示すこと以外の目的においてこのようなタイトルは付されないのであるから、本作には大庭の絵画における基本理念のようなものが表れているのだろう。否応なく目を引くのは鉱石のような立体的な造形が用いられていることだ。現代においてはさまざまな化学合成顔料があるが、そもそも絵具とはさまざまな鉱物や植物などから得られる顔料を主材としている。本作に使われている翠銅鉱(Dioptase)は鮮やかな翡翠色を示す鉱物である。顔料は色彩の粒子の大きさによって色の濃淡が変じる。なぜなら色彩とは特定の光の波長を反射および吸収することによって得られるからである。色彩とは一方ではそうした物理的現象であり、他方では心理的に感知されるものでもある。したがって、大庭は一貫して色彩工学的なアプローチによって光と色を理解し、そこに現れる現象に詩想を重ねてきた。偏光パールや箔においては反射によって、透明樹脂においては透過によって作り出される色と光の重層性は応じて詩想の深度でもあった。本作において、画面に練り込まれたビーズのような物体として可視化されたものは、本来は数ミクロン単位の目に見えない粒子の反射と吸収が作り出している色彩の構造だろう。絵画は、顔料の粒子をキャンバス上に強引に固着させることによって成り立っている。つまり、絵画とは物質の自然状態においては有り得べからざる構造を人の手をもってして作り出すことだ。自然美としての安定した結晶をすりつぶして得た色彩は、画家によって新たなる美的安定性としての絵画へと再び一つに融和していくのである。本作は、薄久保香との二人展「一角と鬣 - The Unicorn and the Lion」(Art Collaboration Kyoto, 2022)において発表されているが、その展覧会タイトルの引用元であろう英国の有名な口誦は対立と融和を謡う。大庭大介という画家の存在を相対化する近しい他者としての薄久保がおり、また、絵画を絵画たらしめている絵具そのものの物質性と自らの詩想を重ねてみせるのである。本作との歪な鏡合わせとなっている当コレクション所蔵の薄久保薫「Fairly Land」を参照されたい。