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Head VI 2 II (inspired by Francis Bacon)
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Year: 2019
Medium: acrylic paint and aerosol on canvas
Dimensions: 93.2 x 76.5 cm (36 5/8 x 30 1/8 in.)
Acquired from PERROTIN, 2022
MADSAKIの作品ではさまざまなイメージが引用される。それは時折過去のマスターピースを引用元とすることも多い。本作はタイトルにも示されている通り、フランシス・ベーコンが1948年から1949年の間に制作した「Head」と題した6点の連作のうちの一点を参照している。「Head VI」は獣の咆哮を思わせる叫びの表情や、「frame-space」と呼ばれる白い立方体状の枠線など、ベーコン作品の特徴を明らかに示す名作として知られる。ベーコンにも多くのマスターピースを参照した作品がある。「Head VI」は17世紀スペインのバロック期の画家ベラスケスによる肖像画の最高傑作「インノケンティウス十世の肖像」を下敷きとしたものだ。気に入らない作品を破棄してしまうことが多かったベーコンは現存作品が少ないが、このベラスケスの作品を元にした絵画は多数確認されている。MADAKIがベーコンの何に惹かれたのかは明らかではないが、この点においては似通った感性を見出したことだろう。本作の制作にあたって、MADSAKIはオリジナルを詳しく検分して描いたのであろうことは伺える。構図はある程度正しくトレースされていると言えるだろう。スプレーペイントと油彩では全く異なる画法だが、色彩に関してもオリジナルに似せたニュアンスを追求している。最大の難点であったはずの表情については、MADSAKIの特徴でもある黒い点のような目がくっきりと描かれている。ベーコンのオリジナルでは眼窩が闇に窪んでいくような描写になっていることと比較すると、表現に大きな差異がある。ベーコンは「叫び」という概念自体を描出することを目指し、不安や恐怖などの感情の表象としては描いていないのだが、それを写したはずの本作においてMADASAKIは意図して表情を描き足し、感情を描いているのだ。名画や映画を題材としたシリーズのことを「WANNABIE’S」とシニカルに呼称していることにその態度が透けているが、巨匠の絵画の中に潜んでいる感情を踏まえた上でそれを批判的なユーモアに転じて見せることは、美術の専門教育を受けた上でストリートに身を投じた経歴を持つMADSAKIらしい。