trace/dimension #30
Year: 2022
Medium: acrylic, pigment on canvas, mounted on wood panel
Dimensions: 53 x 53 cm (20 7/8 x 20 7/8 in.)
Acquired from Isetan Art Gallery Shinjuku, 2022
汚れたタイル、錆びた鎖、古びた板。事前に知らされていなければ、これが全て絵具によって作られたものだと見抜くことなどできるだろうか。とはいえ、多田は単に写実主義を物質的に実践しているだけではない。彫刻的な造形能力と絵画的な描写能力が揃ってこそ実現できる見紛うばかりの本物らしさは現実の何かを写すためではなくゲームの3DCGを再現するためのものである。虚構を現実的に再現する、この矛盾こそが多田の創造性を突き動かしている。ゲーム上では現実らしさを演出するために木は木らしく、石は石らしいテクスチャを用いて描画されている。それを本物と認知した瞬間にそれは本物になる、と多田がかつて述べている通り、その作り物に置き換えられた世界をこそ本物として愛してやまないのである。この「trace / dimension」シリーズはタイルと木材などの全く隣り合う必然性のないものが並んでいる。これはつまり、テクスチャーのバグを表現している。本来繋がるはずのない異素材が同一平面を形成するという非現実的なことがプログラムのエラーによって時折発生する。それは、多田はゲーム世界でしか起こり得ない現象にこそ絵画の新たな表現の可能性を見出しているということを示している。一見多田の認知はひどく歪んでいるように思えるが、しかし、各々が信ずるリアリティについてを表現するということが芸術の動機になり得るのだという基本的な事実を私たちにも思い出させる。
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